旅先で書く手紙は、
受け手のこころを優しく揺さぶる。
それは、旅の途中という臨場感がもたらす、
送り手のエモーショナルな心の状態が、
詩人のように、素直に響く言葉を紡ぐからです。
大人が旅先で書く手紙は、
紋切り型のビジネスレターでも、
下心のあるお礼状でもなく、
“感情を美しく完了させる手紙” であって欲しい。
「あの人の思いやりに、大人になって気づいた。」
「お世話になったあの人に、
ちゃんとお礼を伝えていない。」
「優しかったあの人はお元気だろうか。」
そんな、誰もが抱えている未完了の感情。
それを一つ一つ完了させるたびに、
心の透明度も、人生の味わいも増していきます。
以前、こんなことがありました。
白い積雪のような風合いの、
美しいレターセットを京都のお店で見つけました。
誰に手紙を書こうか考えて思い出したのは、
たった一度だけお目にかかった年上の男性。
何を着ていてもその人らしく、
誰にたいしても同じ振る舞いで
礼儀正しい、とても紳士的なかたでした。
初対面の私にたいしても、
優しく丁寧に関わってくださったことが
とてありがたかった。
そのかたに、文香ふみこうを添えて、
京都のホテルで手紙を書いておくったところ、
数日後、お返事がかえってきました。
上質な便箋に、さらりとした短い文。
同年代を彷彿とさせる、学生のような丸文字に
その人の自己開示がかんじられて、
一気にこころが近づき、親しみが湧きました。
そして、手紙がほのかに香るのです。
それは無言のうちに、
「文香ふみこう、確かにうけとりましたよ」
と、伝える返礼の手紙。
お香のような静けさもありながら、
和に傾倒しない、然り気ない香りがその人らしい。
香りは検索することができないし、
自然香水は、時間とともに自然に還るから、
残るのは印象の記憶だけ。
たった一度、会った。
たった一度、手紙を交換した。
執着のない短いコミュニケーションであっても、
一瞬でも通じあった喜びは、
ちゃんと心に残っている。
人と関わる素敵さは、そんなところにある。
深くても、浅くても。
長くても、短くても。
旅も、手紙も、
世界中で変わることなく、
時代をこえて愛され続けているのは、
どちらも、自分の人生と向き合い、
上質な問いをもたらす、
普遍的なコミュニケーションだから。
テクノロジーが進化しても、
人間のこころは変わらない。
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